奈良県立医科大学 附属病院 腎臓内科学

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腎臓内科について

教授あいさつ

平成30年7月
鶴屋 和彦

わが国の慢性維持透析患者数はいまだに増加傾向にあり、社会的にも医療経済的にも重要な問題となっています。その予備軍である慢性腎臓病(CKD)患者も増加傾向にあり、CKD患者の腎不全の進行を抑制し、透析導入を阻止することは喫緊の課題であり、腎臓専門医の役割は極めて重要となっています。全国的に腎臓専門医は不足している状況で、新たな腎臓専門医の育成が急務と考えられます。

このような状況のなか、奈良県立医科大学腎臓内科学教室は、2018年1月に、伝統ある第1内科から独立して誕生し、僭越ながら初代教授として赴任させていただきました。私は、1990年に九州大学を卒業するとともに九州大学第二内科に入局し、2年の初期研修後に腎臓研究室に配属させていただきました。松山赤十字病院で当学出身の原田篤実先生にご指導いただき、腎臓内科学、透析医学に関する知識を学び、臨床経験を積ませていただきました。1998年に九州大学に帰学し、大学院で急性腎障害の機序に関する基礎研究を行い、腎虚血再灌流障害による尿細管細胞死における酸化DNA損傷と修復酵素に関する研究で学位を取得しました。2003年からは教員として腎臓内科学および透析療法に関する臨床・研究・教育について今日まで励んでまいりました。とくに2006年から12年間、腎臓研究室の主任を任せていただき研究室の運営に携わったことは、多くの苦労もありましたがとてもいい経験になりました。

診療面に関しては、腎臓病のゆりかごから墓場まで、すなわち、検尿異常から透析、移植までを幅広く診療することを理念として診療してまいりました。研究面では、CKDの発症・進展機序、および合併症(血管石灰化、腎性貧血、認知機能障害、脳萎縮など)の病態解明を主なテーマとして、基礎研究と臨床研究に取り組んでまいりました。最近は臨床データベースの構築に従事し、特定健診コホートや保存期CKD、血液透析、腹膜透析、腎生検、腎移植などの疾患コホートの構築に注力してまいりました。今後も継続していきたいと思っています。

1. 優秀な腎臓内科医の育成

第一に、奈良県の腎臓内科のレベルを上げるために、優秀な腎臓内科医の育成に尽力したいと思います。そのためには、研修医の先生方の腎臓内科への入局を増やすことが最も重要です。優秀な臨床医を育てることは大学における教育の基本と考えています。まずは基本的な腎臓病学の知識や技術を丁寧に教え、症例を通してスタンダードな医療について指導し、腎臓専門医を育成していくことを目指しています。

2. 多職種連携の構築

CKDの進展予防・阻止に向けて、他科・他職種とも連携してチーム医療を実践できる体制を確立していきたいと考えています。近年、医療現場では、さまざまな医療関連職種の専門家たちが連携し、治療やサポートを進めていく多職種連携の実践が広がっています。多職種連携を実践することで、関連職種の専門家が医師と平面的な立場に立ち、的確な役割分担とスムースな連携ができます。その結果、主体的に患者さんに関わることができ、専門性をより発揮して医療の質を高め、安全を確保することができると考えられます。また、専門家がチームワークを築いて患者さんの多様なニーズに応えることで、患者の満足度が高まり、患者にとってよりよい医療を実現することにもつながると考えられます。CKD診療においても多職種連携の重要性が指摘されています。多職種連携による治療を受けた患者と受けなかった患者の予後の比較において、前者で有意に生命予後が良好であったことが報告されています。 最近、共同意思決定(shared decision making: SDM)の概念が普及し、腎代替療法の選択におけるSDMの重要性が提唱されています。3本柱(血液透析、腹膜透析、腎移植)の治療法選択が可能となるシステムの確立を目指したいと思います。

3. トランスレーショナルリサーチの推進

CKDの発症要因は免疫学的要因および生活環境要因、遺伝要因など多岐に渡り、これらが相互作用した結果、発症・進展すると考えられます。CKDの原因、増悪因子、予後規定因子を明らかにするためには、日常診療で産み出される膨大な臨床情報を体系的にデータベース化することが重要となります。データベース化を通して、個別の症例のみでは判然としない事実を明確化することが可能となり、CKD発症、増悪のメカニズムの解明、さらには疾患の予防・治療研究へとつなげることができることが期待できます。これらのデータから導かれた結果より、基礎研究などで検証していき、基礎研究で解明されたことを臨床試験で検証する、すなわちbedside to bench, bench to bedsideのトランスレーショナルリサーチを行っていきたいと思います。 浅学非才で甚だ微力ではございますが、身に余る光栄と重責に身の引き締まる思いを感じながら、診療・研究・教育に精進を重ね、地域や大学に貢献すべく精神誠意努力を尽くす所存でございます。今後とも尚一層のご指導とご鞭撻を賜りますよう、謹んでお願い申しあげます。

平成30年7月
鶴屋 和彦

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